退職前に有給休暇をまとめて全部消化できるか?(弁護士 渡邉良平)

 会社を辞めるとき、たまっていた有給休暇をまとめて消化できれば、退社日より前から出社しなくてよく、しかも退社日までの給料ももらえるので、いろいろと好都合です。有給休暇全部を消化しないまま退社すると、なんだか損をした気になるでしょう。会社を辞めるからと言ってまとめて全部消化してよいのでしょうか。


 これについては、原則として有給休暇をいつとるかは労働者の自由だけれども、例外的に事業の正常な運営を妨げる場合は認められない可能性がある、ということになります。 

1 有給休暇の日数は最大で、1年につき40日

 労基法上、入社してから6か月後から10日の有給休暇をとれるようになります(8割以上勤務などの条件を満たす必要があります)。その後1年ごと有給休暇の日数は1日または2日ずつ増え、6年半勤務を続ければ1年に20日の有給休暇を取れます。さらに有給休暇は翌年に繰り越せますから、前年に1日も有休をとらなかった場合は、次の年は合わせて最大40日まで有給休暇を取れます。

 では3年目は60日になるかというとそうはいきません。有給休暇を請求できる時効は2年なので、翌年までしか繰り越せません。1年40日が上限です。もちろん、就業規則でもっと多く有給が付与される太っ腹な会社は別です。あくまでも法律上の最低ラインです。

2 退社するとき、たまっていた有給休暇を全部まとめて消化できるか?

何らかの理由で会社を辞めることになったとします。有給休暇が消化しないまま結構たまっているという場合、退社までに全部の有給休暇(最大40日)を消化し、退社日の有給日数前で出社をやめる、ということは可能でしょうか。
原則として可能ですが、事業の正常な運営を妨げる場合はできない可能性もあります。
 

有給休暇は、原則としていつでも取れます。雇用主の承諾を得る必要はありません。退社してしまえば、有給を取る権利は意味がなくなるわけですから、退社前に取れるだけ取って有給を全部消化してしまおうと考えるのは当然でしょう。退社する人は、次の勤務のための準備などが必要な場合も多く、有給をまとめて消化できるとすれば大変ありがたいことです。

そしてこれは原則として可能です。もちろんその場合は、退社日までの給料も出ます。

ただ、労基法上、事業の正常な運営を妨げるような事情があれば、例外的に、使用者が「有給は別の日に取ってくれ」ということができます。これを時季変更権と言います。
 

事業の正常な運営を妨げるか否か、ですが、単純に会社が忙しいから、というだけの理由では時季変更権は認められません。しかし例えば40日の長期にわたる有給休暇をいっぺんに取るとなれば、時季変更権が認められる可能性が出てきます。判例では、24日連続の年休を請求したのに対し会社が後半12日間につき時季変更権を行使して争いになった事案で使用者の時季変更権行使は適法だと判断したものがあります。
 

ただ、会社を辞めるという場合、事前に会社に伝えていれば、会社側も計画的に代わりの人員を配置するなどの対策を講じることができますから、退職前にまとめて有給休暇を消費しても、事業の正常な運営を妨げる危険は少なくなり、この場合は使用者の時季変更権は否定される可能性が高くなります。
 

したがって、会社を辞める前にまとめて有給休暇を消化したいと考えるならば、会社にも迷惑が掛からないように相当期間をおいて事前に伝えておくのが妥当でしょう。常識的にもこれが妥当な対応と言えます。
 

ただ、仮に退職前の有給休暇の消化が認められても、退社前の有給消化期間中は、まだその会社の社員ですから、その会社の就業規則などには従う必要があります。たとえば就業規則で副業が禁止されているときは、次の仕事の準備だからといって退職前の有給休暇中に副業に当たる行為をすることはできませんので、気を付けてください。

以 上

2021年4月20日 8:57 AM  カテゴリー: コラム

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