勾留請求却下に対する準抗告 いつ釈放されるのか?(弁護士 渡邉良平)

1 逮捕されると何日間出られない?

逮捕された直後の人に接見に行くと、たいてい「自分は何時出られるのか」と聞かれます。

今までの日常とは全く違う世界に入ってしまうわけですから、一刻も早く元の生活に戻りたいと思うのは当然の心理です。

ただ、逮捕状が出されるという事はそれなりの証拠があるという事ですから、簡単には釈放されません。

逮捕されると、警察の留置場に拘束されます。警察は、逮捕後48時間以内に書類・証拠物と共に被疑者を検察官に送致しなければならず(刑訴法203条)、検察官は被疑者を受け取った時から24時間以内(逮捕の時からは72時間以内)に裁判官に勾留請求をしなければなりません。

勾留請求されると、被疑者は裁判所に行き、裁判官から質問を受け(勾留質問といいます)、裁判官は勾留の必要があると判断すれば原則10日間勾留するという勾留決定をします。さらに1回延長されれば最長もう10日間勾留されます。起訴されたら原則として裁判が終わるまで拘束が続きます。

最初の接見の時にこのような説明をすると、そこそこの重罪で逮捕されて裁判を覚悟している人はともかく、そうでない人はたいてい青ざめます。「そんなに出られないのでは会社をクビになってしまう!」

法律である以上、それでも簡単には釈放されません。

しかし例えば犯罪とは無縁で何年も真面目に働いていたサラリーマンがつい酒に酔って人に暴行をふるって逮捕されてしまい、20日も拘束されると長年勤めていた会社を首になってしまう、という場合などは、早期に釈放される可能性も全くないわけではありません。

弁護士は、被疑者が逮捕直後に弁護人になったような場合は、検察官には勾留請求しないでほしいという意見書を、裁判官には勾留決定しないで検察の勾留請求は却下してほしいという意見書を、資料を添付して提出します。検察官が勾留請求しなければ、あるいは裁判官が勾留決定しなければ、1日か2日で釈放されることもあり得ます。

そこで、今回は、裁判所に勾留決定をしないでほしいという意見書(勾留請求却下を求める意見書)を出すときの方法や問題点について述べます。

2 勾留請求却下を求める意見書の書き方

意見書に定型の書式はありません。私の場合は書面の標題を「意見書」「申入書」「勾留請求却下を求める意見書」などとし、内容としては、「第1 意見の趣旨」として「被疑者●●について、勾留決定をすべきではない」又は「被疑者●●についての検察官からの勾留請求を却下すべきである」などとし、「第2 意見の理由」等として、勾留が不要であること、勾留した場合の弊害、等について具体的に記載します。

また、意見書には、必ず疎明資料を添付します。

疎明資料はケースバイケースですが、よくあるのが、被疑者本人の誓約書(被害者と接触しない、証拠を隠滅しない、住所を定めて捜査機関からの聴取要請があれば必ず応じる、などを誓約するもの。被疑者の署名押印をとる)、近親者や職場の上司などの身元引受書です。

また、会社員であれば、会社のホームページの写し、社員であることを示す書類の写し、給与明細、などです。例えば数日後に出張の予定がある場合などは、その予定表を示し資料なども添付します。どのような疎明資料にするかは本当にケースバイケースなので、接見の際によく本人から話を聞いて、どのような資料があるかを一緒に考えるとよいです。

勾留質問の当日の朝までは、これらの資料を集めておく必要があります。前日までに被疑者と接見し、意見書に書く内容を聴き取ります。接見の際には、弁護人選任届や誓約書を書いてもらって宅下げを受けます。被疑者の家族や職場の人などからも必要書類を受け取ります。

これらの資料を添付して、勾留する必要がないこと、勾留した場合に弊害が大きいこと等を意見書に書きます。

また、意見書には弁護人の連絡先を必ず書きます。事務所の住所電話番号FAX番号だけでなく、弁護人の携帯の番号も記載した方が良いでしょう。裁判所の判断が夜になることもあるので、迅速に連絡が取れるように携帯番号を書いておくことは重要です。

3 勾留請求却下を求める意見書の提出方法

次に意見書の提出の仕方です。

意見書提出日は、勾留質問の日の朝です。検察庁に送致された日に裁判所に申し入れをしても、まだ勾留請求書が届いておらず、受け付けられないこともあるので、意見書提出は勾留質問の日になります。

そして勾留質問は、東京地裁の場合は、午前11時30分頃から始まるとも聞きますので、意見書は、遅くとも午前11時までには裁判所(東京地裁なら令状部である刑事14部)に提出します。

但し、弁護人選任届をまだ出していないのであれば、意見書を裁判所に出す前に、弁護人選任届を検察庁に出す必要があります。勾留請求却下を求める意見書の提出は、弁護人の弁護活動ですから、まだ弁護人選任届を出していなければ、意見を述べられません。

したがって、勾留質問の日は、この時点で弁護人選任届が未提出であれば、まず検察庁に行って、弁護人選任届を提出します。その際、写しを1部持参し、その写しに検察庁の受付印を押してもらいます。

次に地裁の令状部(東京地裁なら刑事14部)に行き、検察庁の受付印の押されている弁護人選任届の写しと共に、意見書を提出します。(受付印のある弁護人選任届をこちらでも保管したい場合は、保管用にもう1部弁護士会などでコピーしておきます。)

意見書を提出する際、裁判官との面接を希望する旨伝えます(時間が取れない場合は書面だけになりますが、出来るだけ面接するように心がけます)。

裁判官との面接の際、或いは面接できない場合も電話で、裁判官から追加の資料を求められる場合があります。この場合は脈ありで、追加資料を出せば釈放される可能性がありますから、どういう資料を求められているか、何故その資料が必要なのかをよく聞き、必ずその趣旨に沿った資料を追加するようにします。

4 勾留請求却下決定に対する準抗告

意見書の効果が出て、裁判官が検察官の勾留請求を却下すれば、被疑者は釈放されます。

…のはずですが、そうはいかないこともあります。

勾留請求却下決定に対しては、検察官は準抗告という異議申し立てができます。

そしてこの場合、検察官は同時に執行停止申立てもします。釈放を停止しろという申立てです。

この準抗告と執行停止申立てについての判断は、勾留請求を却下した裁判官ではなく、地裁の係属部で判断をします。

そして、地裁は通常は、準抗告に対する判断を出すまで、執行停止します。その場合、被疑者は釈放されず、裁判所の判断を待つことになります。

これが実務の扱いですが、これには違和感を覚える人もいると思います。

本来人は自由であり、人を敢えて勾留するためには、勾留決定がなされなければならない。ところが上記の例だと、裁判官が勾留決定をしなかったわけだから、勾留の根拠がないので釈放しなければならないはずだ。勾留請求却下決定というのは勾留を認めないという決定であって、釈放する手続きの執行を命ずる決定ではないのだから、勾留請求却下決定に対して執行停止を求めても身体拘束を続けることはできないのではないか。という疑問です。

学説には、多少の差はありますが概ねこのような理由で、勾留請求却下決定に対する執行停止について消極に解する有力説もあります。

しかし実務では、当然に勾留請求却下に対する執行停止は可能として扱われ、被疑者は勾留請求却下決定があっても準抗告が棄却されるまでは釈放されません。

この理屈は、これも多少の差はありますが、要するに逮捕状の効力がまだ生きているので拘束を続けることができる、というものです。何やら腑に落ちない説明ですが、とにかく実務はこうなっています。

裁判所は、執行停止をした上で準抗告に理由があるかを判断し、検察官の準抗告を認めない場合は「準抗告を棄却する」との決定が出て被疑者は釈放され、認める場合は「原決定を取り消す」との決定が出て被疑者は勾留されることになります。

5 勾留請求却下決定に対して検察官が準抗告した場合、いつまで拘束されるか

それでは、準抗告して執行停止された場合、被疑者は何時まで拘束されるのでしょうか。言い方をかえれば、裁判所はいつまでに準抗告に対する判断をしなければならないのでしょうか。

実は、条文上、この場合の時間制限は明記されていません。

一般に説明されるのは、準抗告について判断をするのに必要な合理的な時間は、身体拘束を継続できる、というものです。その時間は何時間と言えるものではなく、事案の内容、証拠の多寡によって異なります。例えば夜間に準抗告及び執行停止の申立てがあった場合など裁判所職員の勤務時間終了した場合は、勾留質問の翌日に決定が出ることもありうることになります。

そうすると、準抗告が棄却されても、逮捕されてから4日目にようやく釈放という事もありうるという事です。「あれ?逮捕されてから72時間を超えてもいいの?」と思った方、条文を見てください。

まず逮捕から48時間という時間制限は、送検手続をする期限です。法は、司法警察員は「被疑者が身体を拘束された時から(つまり逮捕された時から)48時間以内に」「検察官に送致する手続きをしなければならない」(刑訴法203条1項)、としています。

この、48時間という時間制限は、逮捕されてから48時間以内に送致手続きが完了していればよいという事であって、48時間以内に被疑者が検察官のもとに到着している必要はないのです。48時間以内に送致手続きを終えていれば、50時間目に被疑者が検察官のもとについても違法ではありません。

また、検察官が被疑者を受け取ってから24時間、或いは逮捕から72時間、というのは、検察官が裁判官に勾留請求手続きをする期限です。法は、検察官は「被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない」(刑訴法205条1項)、この時間の制限は「被疑者が身体を拘束された時(つまり逮捕された時)から72時間を超えることができない」(刑訴法205条2項)としています。

すなわち、72時間というのはあくまで検察官が勾留請求手続きをする期限に過ぎないわけです。

ではその後、裁判官はいつまでに勾留請求について判断しなければならないか、というと、意外に盲点なのですが、この時間制限は規定されていないのです。

条文を見てください。ないですよね。

同様に、勾留請求却下決定に対する準抗告がなされた場合も、いつまでに裁判所が判断しなければならないという時間制限は規定されていません。よって、勾留請求却下決定に対して準抗告がなされ、執行停止になって身体拘束が続いている場合、裁判所がいつまでに準抗告に対する判断をしなければならないという期限はないので、その判断が出るまで被疑者は身体拘束を受け続けることになります。

「令状実務詳解」という実務書では「法は、逮捕勾留に厳しい時間制限を置いているが、勾留請求後、勾留請求を認めるか否か、準抗告が申し立てれられた場合のその判断の時間制限等については何も触れるところがない。裁判所の勾留請求や準抗告の判断に必要な時間は身柄拘束を認めざるを得ないと考えられる一方、上記のような時間制限を意識して、実務上はなるべく迅速に処理されるところである。」等と説明されています。

したがって、準抗告に対する判断が勾留質問の翌日になっても、つまり逮捕から72時間を超えて拘束が続いても、条文上は直ちに違法ではないのです。

ただし、上記の令状実務詳解にもあるように、実際は裁判所は時間制限をしている法の趣旨を尊重して、大急ぎで判断をしますので、翌日まで持ち越されることはまずありません。

ただ、場合によっては翌日釈放もありうるという事は念頭に置くべきでしょう。

以 上

2021年4月27日 5:11 PM  カテゴリー: コラム

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