北パブコラム(第22回):職務質問を拒否することはできないのか(弁護士 諸橋 仁智)
警察官からの職務質問は拒否できないのでしょうか。
警察官から声をかけられて、「カバンの中身を見せてください。」などと協力を要請された経験がある方は多いでしょう。
用事があって急いでいる、所持品を他人(警察官)に見られたくない等、理由は様々ですが、職務質問に協力したくないこともあると思います。
実際のところ、職務質問への協力を拒否することは非常に困難です。「協力しません!」とはっきりと拒否の意思表示をしても、警察官はあなたの行く手に立ちふさがり、「そんなこと言わないで、お願いしますよ。」と執拗に協力を求めてきます。その場から立ち去ろうとすれば、あなたの肩や腕に手をかけて、その場にとどまらせようとするでしょう。
このような警察官の強引な行為は許されるのでしょうか。
警察官職務執行法2条1項
「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者(①)又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者(②)を停止させて質問することができる。」とあります。つまり、①犯罪の嫌疑がある者や②犯罪の参考人的立場の者を、停止させて質問することができるのです。
しかし、「停止」させるとは、相手方が自らの意思で停止するように求めることができるにすぎません。「行かないで下さい。」等の説得は許されますが、「協力しないのならば逮捕する。」等の心理的な強制を加えることは許されません。
では、肩や腕に手をかける行為はどうなのでしょうか。このような行為は、あまりに強引で違法のようにも思えます。しかし、このような行為も、「相手方を説得するための行為」として、違法とはならないとされています(昭和51年3月16日最高裁決定)。
以上の通り、職務質問において警察官は、相手方を説得するために、しつこくお願いをすることや行く手に立ち塞がること、肩や腕に手をかけて立ち去らせないようにすることができるのです。
しかし、それでも「絶対に職務質問に協力したくない!」という場合は、警察官からの説得に対し、粘り強く拒否の意思を表示し続けるしかありません。結局、警察官に許されているのは説得をすることなのですから、説得をされた上でも捜査に協力したくないという強固な意思を表明するのです。
複数の警察官に囲まれて長時間の説得をされるわけですから、大変なプレッシャーです。警察官は体育会系出身が多いですから、体は大きく、説得には迫力があります。根負けして(不本意ながら)、職務質問に応じてしまうことが通常のようです。
ところで、職務質問の過程で薬物犯罪の嫌疑が高まったとして、警察官が強制採尿令状や捜索差押令状の発付を請求することがあります。この場合は、純粋に職務質問として行われている段階の次のステージに移行して、より強引な行為も認められるとする考え方が主流です(二分論,平成22年11月8日東京高裁判決参照)。
しかし、令状の発付は裁判官が関与しますが、令状を請求すること自体は警察官の判断だけでできます。裁判官が審査をする前の段階であるのに、令状を請求しただけで警察官の職務質問の権限が大きくなるという考え方には違和感を覚えます。最近の判例では、二分論を否定して、令状請求後の警察官の強引な行為を違法とした判断がなされました(平成27年3月4日東京高裁判決)。
普段、交番で道案内などをしてくれる「お巡りさん」は、とても親切で頼りがいのある存在です。しかし、犯罪の嫌疑が認められる相手に対しては、普段のやさしい「お巡りさん」からは想像できない強硬な態度に変わります。
犯罪予防のためとはいえ、警察官の行為は目的のために必要最小限度のものでなければなりません(警察比例の原則,警察官職務執行法1条2項)。職務にまい進するあまり、行き過ぎた行為をすることは許されません。最近の判例では,警察官が捜査対象者の車にGPSを取り付けた捜査が違法とされました(平成28年6月29日名古屋高裁判決)。
違法な捜査によって収集された証拠には、証拠能力が認められません。警察官の強引な職務質問によって収集された証拠の証拠能力を争いたい場合は、当事務所までご連絡下さい。
弁護士 諸橋 仁智
2016年10月25日 10:27 AM カテゴリー: コラム