有罪判決に対して控訴をするべきか(弁護士 田中翔)
刑事事件で第一審の判決が出たが,控訴をしたい,控訴をした方がいいかという相談を受けることがあります。
いきなりマイナスのことを言うことになってしまいますが,控訴審で第一審を覆すのは容易ではありません。最高裁判所がまとめている平成30年度司法統計では,被告人が控訴した事案で,何らかの形で原判決が破棄されたのは,全5710件中576件,割合でいうと約10%となっています。もちろん年度によって多少の違いはありますが,毎年おおよそ同じくらいの割合です。
控訴審で原判決が破棄される件数は必ずしも多くはなく,控訴審では多くの事件で被告人が負けていることがわかると思います。
裁判員裁判が始まり,上訴審は事後審となってきています。事後審というのは,第1審判決が不当違法ではないか,手続に誤りがないかを事後的に判断し,第1審判決を原則として尊重とする考え方が主流です。
つまり,例えば,控訴審裁判所が第1審判決の量刑が重いなと考えたとしても,第1審判決の量刑が第1審に与えられた裁量の幅にあるのであれば,その判断を尊重して原判決を破棄しないということになるわけです。
こういったこともあり,原判決破棄の数が少なくなっているものと思われます。
また,勾留されている場合,控訴審で控訴棄却とされたとしても未決勾留が全て算入されるわけではなく,だいたい60日間程度は裁判に必要な日数であるとして未決勾留日数として算入されないことが多いです。つまり,控訴して負けたら,控訴してから2か月程度は,その後の刑期から引かれることもないまま身体拘束だけがされたことになってしまい,最終的に刑務所から釈放されるのが遅くなってしまうことになります。
控訴することには,こういったリスクがあります。
しかし,不当な判決が少なくないことも事実です。事実認定が誤っていて無罪になるべきものが有罪とされてしまった,有利な事情を考慮してくれず量刑が不当に重すぎる,違法な手続でことさらに不利になってしまった,そういった事案もたくさんあります。
では,どういった場合に,控訴するべきでしょうか。
控訴審で主張できることについては,刑事訴訟法上,絶対的控訴理由と相対的控訴理由が定められています。絶対的控訴理由は,類型的に違法の程度が高いことから,判決への影響に関わらず,これに該当したら絶対的に第一審判決は破棄されるとされています。これは7つあります(刑訴法377条各号)。
①法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
②法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
③審判の公開に関する規定に違反したこと
④不法に管轄又は管轄違いを認めたこと
⑤不法に公訴を受理し,又はこれを棄却したこと
⑥「審判の請求を受けた事件」について判決せず,又は「審判の請求を受けない事件」について判決したこと
⑦判決に理由を附せず,又は理由に食い違いがあること
もっとも,これら絶対的控訴事由が認められて破棄されることはあまりありません。原判決破棄がされた事案のほとんどは,相対的控訴理由が認められて破棄されています。
相対的控訴理由とは,刑訴法に定められている違法が認められ,かつ,その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかな場合をいいます。判決に影響を及ぼす違法でなければならないことが,絶対的控訴理由との違いです。
相対的控訴理由は,4つあります。
①訴訟手続の法令違反(379条)
②法令適用の誤り(380条)
③量刑不当(381条,393条2項)
④事実認定の誤り(382条)
実際に原判決が破棄された多くの事案では,この相対的控訴理由のいずれかが認められて破棄されています。控訴審で主張すべき「本丸」は,このどれかになるといえるでしょう。
相対的控訴理由の内容については,また別のコラムで詳しく説明します(なお,厳密には再審事由があることも控訴理由になりますが,あまり例がないので省きました。)。
ここまでに挙げたどれかに該当すると考えられるときで,第一審判決はどう考えてもおかしい,どうしても受け入れがたい,そう考えるならば,もう一度控訴審での判断を受けることを検討すべきでしょう。
控訴審では,主に,原判決が論理則・経験則に違反していないか,第1審判決後に判決に影響を与える重要な事情があったかどうかを審査することになります。 弁護士とも相談し,原判決の認定が論理則・経験則に違反しているか,第1審判決時点では提出できなかった重要な証拠がありうるかどうかなどを検討して,控訴するかどうかを判断することをおすすめします。
控訴するべきか悩んでいるとき,控訴を続けるべきか悩んでいるときは,ぜひ弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
2020年6月24日 6:09 AM カテゴリー: コラム