刑事控訴審でどう主張するべきか(弁護士 田中翔)
控訴したら,次は控訴審で何をどのように主張するべきかという問題になります。 控訴審は,事後審であり,第1審判決を事後的に審査するということになっています。そして,控訴審では,第1審判決の認定が,論理則・経験則に照らして不合理であるかどうかという視点から審査がされることになります。控訴審は,もう一度裁判をやり直すということではないので,このことを意識しておく必要があります。
控訴審の弁護活動で最も重要なものは,控訴趣意書です。 控訴趣意書は,弁護側の主張を述べる書面です。第1審では,公判において主張を述べることになりますが,控訴審では控訴趣意書で主張していくことになります。誤解を恐れずにいえば,控訴審は控訴趣意書に基づく書面審査が中心といえますので,控訴趣意書の出来はまさに結論に直結することになります。
控訴すると,おおよそ1か月程度で控訴趣意書の提出期限が定められます。(期限が延長されることもありますが)期限内に控訴趣意書を提出しなければなりません。控訴趣意書は,法律上被告人と弁護人の双方が提出することができますが,専門知識を必要とするものですので,弁護人のみが作成すればよく,多くの事案では弁護人作成の控訴趣意書のみが提出されています。
では,控訴趣意書では何を主張すればよいのか。
それは,絶対的控訴理由,相対的控訴理由のいずれかです。これが認められたときに,原判決は破棄されることになります。
原判決破棄されるケースのうちほとんどは,訴訟手続の法令違反(刑訴法379条),法令適用の誤り(380条),量刑不当(381条,393条2項),事実認定の誤り(382条)のいずれかによって原判決が破棄されています。
訴訟手続の法令違反とは,第1審の訴訟手続に違法がある場合のことであり,証拠として採用できないものを採用した場合や刑訴法の規定に違反した手続が行われた場合などがこれに当たります。
法令適用の誤りとは,認定された事実に対して本来適用されるべきではない法律が適用されている場合などをいいます(第1審判決で認定された事実からすれば,横領罪となるべきなのに背任罪が適用されている場合など)。
量刑不当は,文字どおり,量刑が不当に重い場合です。控訴審で最も多く主張されているのが量刑不当といえます。
量刑不当には,1項破棄といわれる場合と2項破棄といわれる2種類があります。
1項破棄とは,第1審判決時点で量刑が重すぎて不当であることをいいます(381条,397条1項)。2項破棄とは,第1審判決時点での量刑は不当ではないものの,第1審判決後の事情を考慮すれば,控訴審現在では第1審判決の量刑は重すぎるから破棄する場合をいいます(397条2項)。控訴趣意書においては,1項破棄と2項破棄の両方を主張すべき場合が多いといえます。なお,2項破棄の主張をする場合には,第1審判決後に被告人に有利な量刑事情が出てきたことを主張・立証する必要があるといえます(第1審判決後に示談が成立した,身柄引受人が現れた,反省が深まったなど)。
量刑不当の主張をする際には,こうした1項破棄と2項破棄ということがあることを意識しつつ,第1審判決の量刑判断が,第1審で明らかになっている量刑事情の判断が論理則・経験則に反して不当であること,第1審判決後に出てきた事情がなぜ原判決の量刑が現時点では不当といえるほどに重要であるかを説得的に主張しなければなりません。
注意しなければならないのは,量刑判断においては,控訴審裁判所の心証と第1審判決の量刑が違っていても(控訴審裁判所としてはもう少し軽い量刑がいいのになと思っていたとしても),ただちに破棄されることにはならないことです。第1審の量刑が,その事件で想定される量刑の幅の範囲内であれば,それは原判決を破棄すべきほどの違法不当ではないことになります。第1審の量刑判断が,その事件で想定される量刑の幅を超えて重いことを主張すべきです。
事実認定の誤りとは,第1審判決が証拠から認められる事実の認定を誤っていることをいいます。無罪になるべきなのに有罪とされてしまった場合はこれに当たります。証拠からある事実を認定する過程が誤りであること,ある事実からある事実を推認する過程が誤りであることを主張することになります。すでに説明したとおり,第1審判決の認定が論理則・経験則に照らして不合理かどうかが審査の対象となりますから,第1審判決の事実の認定過程が論理的に不合理であることや経験上不合理であり,常識的に考えておかしいことを説得的に主張するべきです。
控訴審では,控訴趣意書において,こうした控訴理由を一つあるいは複数主張して,原判決が不合理であることを主張していきますが,その検討の中心となるのは第1審の訴訟記録です。控訴審での主張を検討する際には,裁判所で訴訟記録を謄写(コピー)します。
また,裁判所には提出されていない証拠もあるため,第1審弁護人から記録を借り受けるなどして資料を集めることも重要です。その他にも,関係者へ聴取を行ったり,現場に行ってみたりして資料を収集することもあります。
こうして集めた資料を調査し,原判決の論理構造をよく吟味して控訴趣意書を作成することが控訴審での弁護活動の中心になります。
控訴趣意書とともに証拠を提出する場合には,事実調べ請求を行う必要があります。ここで注意しなければならないのは,控訴審において提出できる証拠は,原則として第1審においてその証拠が提出できなかった「やむを得ない事由」がなければならないことです(393条1項但書)。
もっとも,「やむを得ない事由」がなければ絶対に証拠として採用されないかというとそうではありません。「やむを得ない事由」がなくとも,控訴審裁判所が職権で証拠を採用することは可能とされていますし,そのように証拠が採用されることも少なからずあります。第1審でも提出できたと思われる証拠であっても,その証拠が重要だと思われる場合には,諦めずに事実調べ請求をしてみるべきでしょう。
控訴審は,いかに裁判所に興味を持ってもらえるかが重要です。裁判所に興味を持ってもらえれば,証拠も積極的に採用される可能性が高いといえます。そのためには,控訴趣意書において,この事件はよく調べないといけないなと思わせるよう,第1審判決の誤りの重要部分,事案の核心部分を説得的に主張する必要があります。第1審と同じ主張と漫然と繰り返しただけでは,求める結果を得ることは難しいでしょう。
控訴審は,控訴審の構造をよく理解している弁護士に依頼することが重要です。控訴審での弁護人を探している場合は,ぜひ当事務所にご相談ください。
2020年6月24日 6:16 AM カテゴリー: コラム