会社を辞めさせてくれない!(弁護士 渡邉良平)

1 仕事がきついので今の職場を辞めたいが辞めさせてくれない場合

労働事件については、解雇すると言われている、どうしたらよいか、という相談をよく受けます。
しかし最近は(特にコロナ前は)、今の職場を辞めたいのだがやめさせてくれない、という逆の相談も増えています。

・長時間のきつい労働で残業代も出ない
・辞めたいと使用者に申し出ると、「今辞められると人手が足りなくて仕事が回らなくなるので困る」「契約書には、自己都合では辞められないと書かれているから契約違反だ」などと言われて断られる
・さらには「辞めるなら求人広告や研修にかかった費用を賠償してもらう」「身元保証人になっている親にも賠償請求する」
あるいは学生のバイトだと「学校に通報する」などと脅される例もあるようです。

ここまでくるとブラック企業です。
ここまでひどくなくても、程度の差はあれ、なかなか辞めさせてくれないという事例は多く、職場の人に迷惑をかけたくない、あるいはトラブルを避けるため、仕方なく仕事を続ける人もいます。

他方で、使用者の側にしてみれば、求人広告や面接を重ねてやっと採用した従業員に簡単に辞められたら、仕事に支障が出て、損害が生じる場合もあります。このような危惧は正当と言えます。決して先ほど述べたような嫌がらせの事案ばかりではないのです。

労働者は、退職の自由があるのか、退職する場合、どのような制約があるのでしょうか。
この問題は、労働契約で雇用期間を定めているか否かで、扱いが異なります。

2 契約で期間の定めがない場合 

労働契約で、特に雇用期間を決めていない場合は、労働者はいつでも労働契約解約の申入れをすることができます。
解約申入れをすると、2週間後に解約となります。
ただ、月給制の場合などは、解約申入れは、前月の前半にしなければなりません。このような制約はありますが、期間の定めがない場合は容易に辞めることができると言えます。

辞める理由を説明する必要もありません。これは民法627条に規定されています。
逆に使用者の側から解約することについては、簡単ではなく、理由が必要です。
労働契約法16条などにより、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合」でなければ解雇できません。

労働者が辞めるのは自由だが、使用者からの解雇はハードルが高い、ということです。
しかし、雇用期間を定めている場合は、労働者の方も簡単には辞められません。

3 契約で期間の定めがある場合

労働契約では、契約期間を定める場合があります。その場合、原則として、3年を越える期間の定めはできません(労働基準法14条。例外もあります)。
そして、期間を定めている場合は、使用者だけでなく、労働者の側でも、簡単には契約を解除できません。

解除するためには(つまり辞めるためには)「やむをえない事由」が必要になります。
これは民法628条に規定があり、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむをえない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」とされています。

期間の定めがある場合は、労働者も使用者も、簡単には解除できず、解除のためには「やむをえない事由」が必要なのです。
ただし、労働基準法附則137条により、1年を越える雇用期間を定めた場合は、労働契約期間の初日から1年を経過したときは、労働者は解除できる、とされています。
要するに、期間の定めがあっても1年経っていれば、辞めることができる、ということです。

4 期間の定めのある場合の「やむをえない事由」とは?

では、1年以内であれば、辞めることはできないのかというと、上記のように「やむをえない事由」が認められれば、辞めることができます。
具体的に、どのような場合が「やむをえない事由」に当たるといえるかは、様々な事情を考慮する必要があるので、一概には言えません。

ただ、例えば病気の場合、元々の契約にない危険な職務を命じられた場合、あるいは、残業代が支払われないなど使用者側に法令違反がある場合、などには「やむをえない事由」ありとされ、労働契約解除が認められる可能性が高いと言えます。

5 辞めると損害賠償?

民法628条には続きがあり、やむをえない事由があって辞めることができる場合でも、「その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」としています。
労働者は場合によっては損害賠償責任を負うのです。

ただ、例えば深夜労働が続いているのに残業代を支払わないので退職したような場合は、使用者に法令違反がありますので、労働者が損害賠償責任を負うことはないでしょう。
また、実際には、辞めたことで損害賠償請求をされた事例は少ないようです。
ただし、従業員が一斉に退職した場合について労働者に損害賠償責任を認めた判例などがあります。

従業員が損害賠償責任を負わない場合は、当然、身元保証人なども損害賠償責任を問われることはありません。

以上のように、辞めることができるか、などについてはケースバイケースです。

以 上

2021年4月6日 4:22 PM  カテゴリー: コラム

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